小学館BNC、研究・教育にフル活用

~そして、21億語 SEKAI CORPUSへ~

豊田工業高等専門学校 教授  神谷昌明

BNCは1億語(話し言葉1000万語、書き言葉9000万語)から成る巨大イギリス英語コーパスです。小学館のBNC Onlineが一般公開されて以来10年以上にわたり、研究・教育に活用し、論文を書き上げてきました。また教育現場ではコロケーション指導に大いに役立っています。以下、活用例を紹介します。

小学館BNC OnlineはUser friendly

ワードやエクセルなどのソフトが使いこなせれば、特殊な知識・技術がなくても誰にでも活用できるコーパスです。すべての単語に品詞情報(「品詞タグ」と呼ばれる符号)が付与されているため、二つ以上の品詞を持つ単語の用例検索に役立ちます。例えばwaterは名詞と動詞(自動詞・他動詞)の用法があり、頻度的には圧倒的に名詞用法です。英和辞典でもwaterの動詞の用例が少なく適切な用例を複数、英語学習者に提示することができません。BNCの「品詞検索」機能を使って、動詞を表す品詞タグ(VV.*(一般動詞を示す品詞タグ))を指定して検索ボタンをクリックするだけでwaterの動詞用法を多数導き出すことができます。出典も調べられるので、どんな文脈で使われている用例なのか容易に判断できます。

I always water with rain water, what am I doing wrong?

(私はいつも雨水で水をまいています。いけないでしょうか)

(出典:The Gardener, Maxwell Consumer Magazines, 1991-03)

和製英語の確認

世間を騒がせたミステリーサークル(穀物が円形に倒される現象、またはその倒された跡)は和製英語でしょうか。悩んだことはありませんか。和製英語であるのか確認するのに役立ちます。ヤフーやグーグルなどの検索エンジンで検索するとmystery circleがたくさん出てきます。ヤフーなどに現れる英語は不特定多数の世界中の人々が書いた(投稿した)英語です。英語母語話者の英語もあれば、英語非母語話者の書いた英語もたくさんあります。間違った英語表現も多数見られますので、注意しなければなりません。
BNCは出典が明示され、英語母語話者の英語であるので安心して和製英語であるのかチェックすることができます。BNCでmystery circle(ミステリーサークル)を検索すると1例も出てきません。和製英語であることが容易に判断できます。 実際の英語ではcrop circle(BNCで12例)または corn circle(BNCで5例)と表現します。

英和辞典・参考書の記述確認、豊かな用例の提示

英和辞典の記述を確認したり、英和辞典には記載されていない用例を導き出すことができます。BNCは特にイギリス英語の用例検索に役立ちます。
(1),(2)は軽動詞(have, takeなど)+動詞派生名詞から成るComposite Predicate(CP)と呼ばれる構文であり、現代英語の特徴の一つです。軽動詞は動詞独自の意味が希薄であるために、意味の大部分を後続の名詞(句)に託しています。CPは一語動詞と違って1回限りの完結した内容を示した口語的表現です。

(1) I had [took] a look at the pictures.

(2) She had [took] a shower.

一般的にはtakeは米語、haveはイギリス英語で好まれる傾向がありますが、米語とイギリス英語で明らかな差異があるCPとして

米語 イギリス英語
take a look (at) have a look (at)
take a bath have a bath
take a shower have a shower

などがあります。
BNCで確認するとhave a look (at), have a bath, have a showerがtakeよりも圧倒的に多いことが分かります。多くの英和辞典、参考書の記述通りの結果ですが、問題は動詞派生名詞がどんな修飾語句(形容詞など)と共起するかです。CPは、形容詞などの修飾語句とのコロケーションにより、表現がより豊かになります。多くの英和辞典は紙面の関係上、その用例を(ある程度詳細に)載せている英和辞典は少ないと言えます。英語学習者に自信を持ってCPの豊かな用例を提示することができません。(英語非母語話者である英語教員・英語学習者には、英語に対しての直感がありませんので、どんなコロケーションがよく使われるのか分かりません)
BNCを検索することにより、豊かな用例を容易に導き出すことができ、授業時に学生・生徒に自信を持ってその用例を提示することができます。
例えばhave a look (at)を検索する場合、BNCの「共起検索」機能を使い、中心語にlookを入れ、中心語の品詞を名詞(品詞タグ:N.)に指定します。そして検索ボタンをクリックすればlookと共起する修飾語句を見ることができます。have a look (at)と共起する高頻度修飾語句はgood, close(r), quick, another, littleです。

(3) For the first time Arthur had a good look at the man's face.

(4) We end this section by having a closer look at the Bank of England, the UK's central bank.

(5) Have a quick look at your right ear, your left one looks fine.

(6) The Public Affairs Committee has had another look at privacy and the law.

(7) …we'll start this again and have a little look at the beginning.

また次のような修飾語句を見つけ出すことができます。多くの英和辞典や参考書には記載されていないコロケーションです。まさにコーパスの成せる技です。(have a proper look (at)は英語非母語話者には思いつかないコロケーションです)

have a better look (at)(9例)

have a proper look (at) (7例)

have a brief look (at) (4例)など。

画期的なコーパスの誕生 ~21億語の大規模専門分野 WEBコーパス~

小学館BNC Onlineの活用例を述べましたが、平成28年の夏に「21億語の大規模専門分野 WEBコーパス[ SEKAI CORPUS ]」が一般公開されました。この巨大コーパスは各専門分野(「経済」「政治」「法律」「IT」)から成るコーパスです。自分の専門分野・興味に合わせて利用できるコーパスです。例えばコンピュータ関係で使われるtethering(テザリング:パソコンにスマートフォンなどをつないでデータ通信を行うこと)の用例のみを調べたいとき、サブコーパスの「IT(Computer)」のみを指定して検索すれば、必要とする用例のみ見つけ出すことができます。「(動物など)をつなぐ」と言う意味のtether(ing)を排除できますので効率的に用例を導き出すことができます。

最後に:コーパス利用の最大の強みは、語と語のつながり(コロケーション)を知ることができることです。英語母語話者の英語使用を垣間見ることができます。まさしくコーパス利用は英語母語話者の英語に近づくパスポートと言えましょう。

参考文献(小学館BNC Onlineを利用した神谷関連論文:全てオンラインで入手可)

  • (1) 神谷昌明「Composite Predicateについて」『豊田工業高等専門学校研究紀要』 Vol. 36. pp.123-128. 2003.
  • (2) 神谷昌明・高橋薫・神田和幸「動名詞を用いた慣用表現・コロケーション It is no use ~ing再考 ---British National Corpusを検索して---」『中京大学教養論叢』第45巻第1号 pp.93-128. 2004.
  • (3) 神谷昌明・佐藤利哉・神田和幸「定型表現if it were not for再考 ---小学館BNC Onlineを利用して---」『中京大学教養論叢』第46巻第1号 pp.1-29. 2005.
  • (4) 神谷昌明「現代英語に現れる(古)フランス語からの借入語法・なぞり--- 前置詞inで始まるなぞりについて---」『豊田工業高等専門学校研究紀要』 Vol. 42. pp. 115-132. 2009.
  • (5) 神谷昌明「フランス語法を借用した「動詞+名詞」の慣用連語」『豊田工業高等専門学校研究紀要』 Vol. 44. pp.119-142. 2011.